管理栄養士・栄養カウンセラーのひびようこです。(@nourish.hibi)
更年期に増えやすい症状にドライマウス(口腔乾燥症)があります。自覚症状がない方も多い厄介な症状です。放っておくと大きな病気の引き金にもなりかねないので、早めの対策をしておきましょう。
ドライマウスの自覚症状がなくても、ドライアイや性交痛がある方はドライマウスになっている可能性が高いです。
治療の他に自分で対策できるのは、日頃の食生活や生活習慣の改善です。管理栄養士として、栄養による対策方法をお伝えします。
更年期女性に起こりやすいドライマウス
唾液分泌量が減少しているケース(唾液分泌低下症:hyposalivation)と、睡液分泌量が減少し ていないにもかかわらず、口腔乾燥感を訴えるケースがある。口腔乾燥症の原因は、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)や放射線性など睡液腺自体の機能障害によるもの、神経性あるいは薬剤性のもの。全身疾患性あるいは代謝性のものなど、多肢にわたる”。口腔乾燥症の正確な疫学調査は行われていないが、専門外来の患者統計では女性が7割以上を占めており、更年期以降の女性が多い。
『女性医学ガイドブック 更年期医療編 2019年度版 日本女性医学学会 編』より引用
ドライマウスになりやすい原因
- 女性ホルモンの低下
- ストレスの増加
- 連続する緊張感
- 糖尿病や腎不全などの病気
- 抗うつ薬の服用
- 利尿薬の服用(高血圧の方は要注意)
- シェーグレン症候群(自己免疫疾患)
など
唾液の分泌量が著しく低下するのは、さまざまな要因が重なっています。
更年期世代は、女性ホルモンの低下に加えてストレスや緊張を抱える環境に置かれることも増えるため、自律神経が乱れやすくなります。自律神経には唾液の分泌量を調整する役割があるので、知らず知らずのうちに悪化させやすいです。
ドライマウスで起こりやすいトラブル
- 口の中がネバネバする
- 水分の少ない食べ物が食べにくくなる
- 歯垢がたまりやすい
- 虫歯になりやすい
- 歯周病が進行しやすい
- 口臭が気になる
- 舌のひび割れ、痛みが起こる
- 味覚に変化が起こる
- 発音が悪くなる
など
※一つでも当てはまるものがあれば対策が必要です。
唾液は細菌の繁殖を抑える力も持っているため、分泌量が減ることで感染症や誤嚥性肺炎にかかりやすくなります。高齢になってからの対策では改善が難しいので、一つでも症状が現れたら対策を行いましょう。
まずは、歯科の定期検診は必ず行ってください。唾液が減ることにより歯垢がたまりやすくなると、歯周病の進行が早まります。
ストレスや緊張の緩和も必要です。どんなに忙しくても、5分でもいいのでリラックスができる時間を作りましょう。
自己免疫疾患との関係性
病気によってドライマウスが引き起こされることがあります。その中で、40歳以上の女性に発症しやすいのが指定難病の「シェーグレン症候群」です。
シェーグレン症候群の主な症状はドライマウスを始めとしたさまざまな不調で、更年期障害の不調と似ている部分があります。更年期が過ぎれば治る症状ではないため、思い当たる症状が重なっている方は専門医(※)に診てもらいましょう。
※リウマチ科医、内科医、眼科医、歯科医など
- ドライマウス(口の中や喉の渇き)
- 口内炎、口角炎
- 乾燥による嚥下困難
- 声のかすれ
- ドライアイ(乾燥、異物感)
- 目の痛み
- 光過敏
- 食欲不振
- 味覚の変化
- 皮膚の乾燥や発疹
- 関節の痛みや腫れ
- 疲労感、全身倦怠感
- 記憶力や集中力の低下
など
関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患がある方は、シェーグレン症候群を併発する可能性も高いので要注意です。
ドライマウスを栄養で対策する方法
閉経の平均年齢は50歳なので、プレ更年期(35歳くらい)に入ったらお口のメインテナンスを意識し始めるといいでしょう。栄養での対策は決して難しいものではないので、頭の片隅に置いてみてください。
高タンパクな食事と酸味で唾液分泌
高タンパクな食事
唾液の主成分は水分ですが、残りの0.5%にはタンパク質・ミネラル・電解質などが含まれます。
タンパク質は体内の水分を維持する重要な役割を果たしているため、摂取量が減ると唾液の主成分である水分も保ちにくくなります。水分の摂取も大切ですが、栄養面ではタンパク質を意識する必要があります。
また、理想的な唾液は粘性のある唾液といわれています。粘液の主成分は「ムチン」と呼ばれるもので、タンパク質に糖が結びついたものです。子どもの頃は粘性の高い唾液が出やすいですが、加齢とともに水性に近くなっていきます。
胃液のような動物粘液の主成分が糖タンパク質で,それをムチン1)と呼ぶことは科学的に正当であるが,唯一わが国だけでは,野菜や根菜類全般の「ねばねば成分」をムチンと呼ぶ誤った用法が蔓延しており,消化器官の健康解説,調理レシピ,食材や健康食品の効能紹介,地方特産野菜広告など,媒体を問わず,多数の掲載例がある2).科学的には,ムチンは動物界(Kingdom ofAnimalia)だけに存在し,植物やキノコ類には見いだされていないのが現状である3).
『ムチン奇譚:我が国における誤った名称の起源』より引用
唾液は粘性が高いほど抗菌効果や消化力が高いです。その他の働きも粘性が高いほど高まります。
少しでも長く粘性を保つには、身体を作るのに不可欠なタンパク質の摂取が必要です。たくさんは食べられなくても、こまめに食べるように心がけましょう。
動物性タンパク質は全ておすすめできますが、中でも意識したいのはヌルっとした成分(ムチン)を持つ魚介類です。
酸味のある味付けや飲み物
唾液の分泌が少ないと自覚している方は、酸味のある食べ物や飲み物を口にしてから食事をしてみてもいいでしょう。
酸っぱいものを食べたり飲んだりすると、舌の味らいが刺激されて唾液の分泌が促されます。
ただし、注意点があります。酸性が強いと歯が溶けて欠けたり知覚過敏を起こしたりするので、長時間で酸にさらさないように気を付けてください。
- 甘いお酢ドリンクの常飲(黒酢、美酢など)
- 甘いドリンクの常飲(果汁ジュースも含む)
- 酢を直接飲む
- クエン酸やビタミンCの粉末を直接口に入れる
- 酸味のあるアメ・タブレット・グミなど
- 糖分の多い食べ物(糖質で増えるミュータンス菌が酸を作る)
これらはできるだけ避けましょう。
「逆流性食道炎」「摂食障害による過食おう吐」「アルコールや妊娠中のつわりによるおう吐」で口の中が酸性に傾きやすい方は酸味による対策は向きません。
ビタミンとミネラルで粘膜を強化
唾液に含まれる粘液は口の粘膜を強化するのに大事な役割を果たしています。タンパク質とともに重要なのがビタミンやミネラルなので、これらにも意識を向けるといいでしょう。
動物性タンパク質を意識した食事をしていると自然に摂取できる栄養素です。
ビタミンCは動物性タンパク質を組み合わせて摂取しましょう。コラーゲンの合成や細菌の増殖抑制に役立ちます。
控えてほしいし好品
摂取した栄養素を無駄にしないためにも、以下のし好品は控えるように心がけてください。
カフェインの過剰摂取やアルコールの摂取は、利尿・ミネラルの排出につながります。栄養素に気を付けたとしても、体内の水分やミネラルを排出してしまっては元も子もありません。
また、糖分の多い食べ物を過剰に摂取するのも控えましょう。糖質で増えるミュータンス菌(虫歯菌)が酸を作り、歯を溶かしたり口の中のバランスを壊したりします。
し好品はほどほどにしておきましょう。
まとめ
乾燥肌やドライアイが気になっても、唾液の量を意識している方は少数派だと思います。しかし、私たちの身体を守るのに重要な役割を果たしている大事な成分です。
無意識にしている飲食がドライマウスを加速させている可能性も十分に考えられるので、今日から少しだけ意識してみてください。唾液の量が増えると、食事のおいしさにも変化が現れます。
栄養での対策とともに、「よくかみ砕く」「鼻呼吸を意識する」などの対策もしてみましょう。鼻詰まりがある方はアレルギーや炎症があるので、治療を優先することをおすすめします。